Day: June 26, 2020

『小学生がママでもいいですか?』ぢたま某(kiss×sis)の妄想が昇華した傑作だ!|今日のおすすめ|講談社コミックプラス『小学生がママでもいいですか?』ぢたま某(kiss×sis)の妄想が昇華した傑作だ!|今日のおすすめ|講談社コミックプラス

レビュー エンタメ 草野真一 これは傑作である はじめに言っておこう。これはすごい作品である。他に類を見ない作品である。 この作品のコミックスを買い求めた人々よ、あなたはロリコンかもしれないし、マザコンかもしれないし、ぢたま某の熱心な読者であるかもしれない。いずれも胸はって主張できない嗜好ばかりだが、恥じることはない。あなたは時代の先端にいる。おおいに誇るべきだ。 ぢたま某の『kiss×sis』はテレビアニメ化もされた人気作品である。第1話が掲載されたのは2004年。現在も「月刊ヤングマガジン」に掲載中の長期連載作品だ。 『kiss×sis』の世界観は、決して特殊なものではない。「朝起きるとエロいお姉さんがディープキスしている」という妄想は、誰もが抱く種類のものだ。俺はシスコンじゃねえぞと言う人もいるだろうが、安心したまえ、『kiss×sis』のお姉さんは血がつながってない。ようは、ただのかわいい女の子である。そういう子が、目覚めるとチュウしてくれている。あなたが男の子なら、そんな妄想、抱いたことあるでしょ?  妄想に著作権はない。したがって、同じ設定を使って物語をつくってもなんの問題もない。おそらくAVにはほとんど同工異曲のストーリーがある(あった)はずだ。だからこそ広範な支持が得られたのだし、だからこそ長期連載が可能だったのだと言うこともできる。 ところが、本作『小学生がママでもいいですか?』はそうではない。ここには、「この作品だけが持つオリジナリティ」が表現されている。そんな作品そうそうないよ。 マンガとは妄想を描くものである マンガの多くは、妄想を描いている。 「押し入れの中に未来から来たネコ型ロボットが住んでいて、困ったとき助けてくれたらいいのになー」という妄想。「ゆかいな仲間たちと甲子園で活躍したいなー」という妄想。異性に関するものもむろんある。たとえば、「学校一の美人が幼なじみで、うだつのあがらない僕をずっと愛していてくれたらなー」とか。 逆に言うと、ヒットしたマンガのストーリーには、その時代に支配的だった妄想のかたちが表現されている。「厳しい修行に耐えて巨人のスター選手になりたいなー」という妄想は、かつては大いに支持されたものだけれども、現在はほとんど実効性のないものになってしまっている。作品が古いものになるのは、たぶん、そのときだ。 『kiss×sis』が連載開始から10年以上を経過した今でも、まったく古さを感じさせないのは、誰もが抱くエバーグリーンな妄想を描いているためだ。さらに付け加えるなら、『kiss×sis』は現在、エロいクラスメイトやエロい先生がレギュラーになっている。妄想の幅がさらに広くなっているわけだ。 ところが、本作に描かれた妄想は、そうではない。 統計をとったわけではないから本当のところはわからないが、「小学生に愛されたい」という妄想は、普遍的なものとは言えないのではなかろうか? 「お母さんに甘えたい」も、同じじゃないだろうか? これって、すごくニッチな、スキマな妄想じゃないか? 「小学生=ジャリ」と考える人は多い。「お母さん=ベテラン女性」と思う人も多い。いずれにしても性の対象ではなく、妄想のネタにはなりにくい。 そういう一般性がない(ように思える)妄想を題材にするには、知恵がいる。 本作はその知恵の結晶である。単純にふたつの妄想をまぜ合わせて、両方の嗜好を取り入れたわけでは、むろんない。物語の構成はもちろん、それを語る手順まで熟考し、ふたつの性癖に興味がない(と思っている)人まで取り込もうとした、野心と思索と経験の産物である。 この作品に先行する形で「バブみ」という概念があり、それを描いたマンガがあることも知っている。 だが、そんなものはなんの役にも立たないのだ。上でマンガは妄想を描くものとか言ったけど、そんなことよりもっと大事なことがあるんだ。 マンガは、おもしろくなければいけない。ぢたま某は、それを描くことが可能な作家なのだ。だからこそ、ぢたま自身も、編集者も考えた。どう語るか思い悩んだ。 お察しのとおり、このネタ、語りようによってはすごくヤバイのだ。バブみですか、ハイ描けましたってわけには絶対にいかない。そういう題材をテーマにしたうえ、マンガとしてのおもしろさを語るにはどうしたらいいのか。これは、たいへんアクロバティックな作業である。誰にでもできるこっちゃない。 『kiss×sis』と比べ、本作は明らかにエロが少なくなっている。これはたぶん、このテーマを語るために(おもしろいマンガにするために)より手間暇がかかっているためだろう。 とはいえ。読者ってのは無責任なもんだ。どうしたって期待しちゃうのである。 小学生のママ木々那(ここな)ちゃんは、エロやるのかなー。 今後の展開がとてつもなく楽しみな作品である。 電子あり 著:ぢたま 某